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頬に吹く風

『頬に吹く風』 黒田三郎 (「ふるさと」より)

  自分ではそんなに
  いらいらしているつもりはない
  ところが雑踏する町かどでは
  無意識のうちに
  一台でも先の車に乗ろうとする
  ベルが鳴ると
  気ぜわしく受話器に手をのばす

  車の洪水
  たえまない騒音
  はんらんする情報の中にいて
  だが自分ではせかせかしているとは
  あまり思っていない
  ただ生きるためにそういう日常に
  なれているだけだと思っている

  自分では
  いらいらしているつもりはないし
  そんなにせかせかしているとも思わない
  それなのにある日突然に
  こんな檻を出て
  ひとりの個人になりたいと
  思う事はないだろうか

  別に何を望んでいるというわけでもないのだ
  森や畑や住宅のなかの
  ひっそりとした小道
  黙々と日をあびて
  ひとりでしずかに歩く
  そんな道があればいいと
  そう思うことはないか

  立派で美しい
  目標やたてまえやイメージがある
  あきあきするくらいたくさんの
  もっともらしい饒舌
  ほんのちょっぴりでも本音を吐くと
  尻尾をつかまえられでも
  するかのように

  仕事が生きがいだと誰だって思う
  ないがしろにするわけがない
  だがどうかすると
  早く夕方になって仕事が終わればいいと
  ある午後には思い
  ある週日には早く土曜日が来ればいいと
  思うことはないか
  仕事の予定表の間を
  時間はただみすみす
  過ぎ去っていくかのように
  そこには
  汗まみれの頬に吹く風のように
  何かの過ぎていく感触はない
  あふれる日の光も木の葉のゆらぎも

  青い空みどりの森澄んだ水
  それは誰でも心に思い描く
  失われてしまったふるさとを
  懐かしく思い描くように
  それは今ではただのイメージ
  もはやことばでしかないのかと
  そう思わないだろうか





© m_kuroda 無断転用はお断りします

夕暮れ

『夕暮れ』 黒田三郎(「ある日ある時」から)

  夕暮れの町で
  僕は見る
  自分の場所からはみ出てしまった
  多くのひとびとを

  夕暮れのビヤホールで
  彼はひとり
  一杯のジョッキをまえに
  斜めに座る

  彼の目が
  この世の誰とも交わらないところに
  彼は自分の場所を選ぶ
  そうやってたかだか三十分か一時間

  夕暮れのパチンコ屋で
  彼はひとり
  流行歌と騒音のなかで
  半身になって立つ

  彼の目が
  鉄のタマだけ見ておればよい
  ひとつの場所を彼はえらぶ
  そうやってたかだか三十分か一時間

  人生の夕暮れが
  その日の夕暮れと
  かさなる
  ほんのひととき

  自分の場所からはみ出てしまった
  ひとびとが
  そこでようやく
  仮の場所を見つけ出す
    

©m_kuroda 無断転用はお断りします

『道』 黒田三郎(詩集「失われた墓碑銘」より)

な   道 道
の そ   は
で れ 刑 ど
あ な 務 こ
る の 所 へ
  に へ で
群   ゆ も
衆 い く 通
の つ 道 じ
中 も   て
を 道 ど い
歩 は こ る
き 僕 へ  
つ の も 美
か 部 通 し
れ 屋 じ い
て か て 伯
  ら い 母
少 僕 な 様
年 の い の
は 部 道 家
帰 屋 な へ
っ に ん ゆ
て 通 て く
く じ あ 道
る て る  
  い だ 海
  る ろ へ
  だ う ゆ
  け か く

©m_kuroda 無断転用はお断りします

※ 作品に忠実に「縦書き」にしましたが、読みにくいですね…。

遠いある日



    『遠いある日』 黒田三郎 (詩集「ある日ある時」より)

       むせかえる
       草いきれのなかに
       ぼうぜんと立ちつくした
       遠いある日がよみがえる
   
       目くるめく夏の光
       風は死に
       肩のうえには
       ただ限りなく青い空
   
       あなたの心のなかで
       そのとき何がくずれ落ち
       何がみどりに
       芽を吹いたか


©m_kuroda 無断転用はお断りします

日曜日

『日曜日』 黒田三郎(詩集「羊の歩み」より)

  妻も外出
  娘も外出
  小学一年生のむすこだけが
  表の遊び場で遊んでいる
  晴れた日曜日

  この子といっしょに出掛けると
  「オジイチャントイッショデイイワネ!」
  とやられるのが
  このごろでは
  関の山

  そこで台所に立ち
  じゃがいもの皮むき
  たまねぎににんじん
  にんにくをひとおろし
  カレーライスのしたく

  料理はオヤジのレジャーです
  ウイスキーをひとくち
  はなうたをうたいながら
  グリンピースのふたをあける
  日曜日の午後

©m_kuroda 無断転用はお断りします

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嬬恋村からの便りです。